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東京高等裁判所 平成8年(ネ)5485号 判決 1998年1月22日

控訴人

沖谷政海こと沖ノ谷政海

右訴訟代理人弁護士

森井利和

東澤靖

被控訴人

破産者生活協同組合メセタ(以下「メセタ」という。)

訴訟承継人メセタ破産管財人三木昌樹

右訴訟代理人弁護士

石田英治

主文

一  控訴人が、メセタに対する東京地方裁判所平成八年(フ)第三八六一号破産事件において、別紙請求債権一覧表中「当審認容金額」欄記載の一般の優先権のある破産債権を有することを確定する。

二  控訴人の右事件における別紙請求債権一覧表中「異議ない金額」欄記載の破産債権が一般の優先権のある債権であることを確定する。

三  控訴人のその余の請求を棄却する。

四  控訴審における訴訟費用はこれを四分し、その三を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実

第一申立て

一  控訴人(当審で訴えを交換的に変更し、被控訴人はこれに同意した。)

1  控訴人が、メセタに対する東京地方裁判所平成八年(フ)第三八六一号破産事件において、別紙請求債権一覧表中「異議金額」欄記載の債権について、一般の優先権のある破産債権を有することを確定する。

2  控訴人の右事件における別紙請求債権一覧表中「異議ない金額」欄記載の破産債権が一般の優先権のある破産債権であることを確定する。

3  控訴審における訴訟費用は被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  控訴人の当審における請求を棄却する。

2  控訴審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

第二主張及び証拠関係

一  当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事実摘示中第二のとおりであるから、これを引用する。

1  当審で追加した主張

(一) 控訴人

(1) メセタは、平成八年一二月一三日、東京地方裁判所において破産宣告を受け(同裁判所平成八年(フ)第三八六一号)、被控訴人が破産管財人に選任され、被控訴人が本訴を承継した。

(2) 控訴人は、右破産事件において、別紙請求債権一覧表中「請求債権額」欄記載の債権を破産債権として届出したところ、平成九年三月二日に開催された債権調査期日において、被控訴人は、同表中「異議ない金額」欄記載の債権が存在することについては異議を述べなかったが、右債権が一般の優先権を有する破産債権であること及び同表中「異議金額」欄記載の債権については異議を述べた。

(3) 被控訴人が、その存在について異議を述べなかった別紙請求債権一覧表中「異議ない金額」欄記載の債権は、原審が認容した債権と同一のものであるが、右債権は賃金債権であるから、一般の優先破産債権であり、また、別紙請求債権一覧表中「異議金額」欄記載の債権は存在し、かつ、右債権も賃金債権であるから、一般の優先破産債権である。

(4) よって、控訴人は、被控訴人に対し、別紙請求債権一覧表中「異議金額」欄記載の債権が一般の優先権を有する破産債権であること及び同表中の「異議ない金額」欄記載の債権が一般の優先権を有することの確定を求める。

(二) 被控訴人

(1) 右(1)、(2)の事実は認める。

(2) 同(3)の事実は否認する。

2  原判決の付加、訂正、削除

(1) 原判決事実摘示中に「被告」とあるのを「メセタ」に改める。

(2) 原判決一〇頁七行目の「事務所」を「事業所」に改め、同一五頁三行目の「後記」の次に「ハ」を、同一六頁七行目の「右」の次に「により」を加え、同行目の「合計」を「計算」に改め、同三〇頁九行目から同一〇行目にかけての「の割合による金員」を削り、同三六頁八行目の「月額」の次に「三三万一〇〇〇円であったが、同期の賞与については前期(賃金改定前)の基準内賃金を基準とすることとなった。前期における控訴人の基準内賃金は」を加え、同三八頁二行目の「並び」から同七行目末尾までを「の賃金債権を有する。」に改め、同三九頁初行の「年齢」の次に「、平成元年八月一日当時の控訴人の賃金額が月額三〇万〇五〇〇円であったこと」を、同四〇頁三行目の末尾に「(以下「前訴」という。)」を加え、同四六頁四行目の「毎月」を「毎日」に改め、同四八頁九行目の冒頭に「平成六年一月から」を、同行目の「ところ、」の次に「同年四月末日までに」を加え、同四九頁末行の「三一日」を「三〇日」に改める。

(3) 原判決五二頁二行目の「被告は」から同五行目の「(6)」までを削り、同五四頁二行目の次に改行して「ただし、控訴人が賃上げによる差額賃金及び一時金(賞与)の正確な金額を知ったのは平成六年四月であるから、被控訴人の主張する消滅時効の起算日は右の時点である。」を加え、同五六頁八行目の「及び整理解雇」を削り、同五七頁四行目の「同意をしていない」を「同意しておらず、控訴人もその賃金を低下させることについて同意していないから、控訴人の賃金を低下させることはできない」に改め、同五九頁末行の次に改行して次のとおり加える。

「(3)(予備的主張・時効援用権の濫用)

控訴人が賃上げによる差額賃金及び一時金(賞与)の正確な金額を、資料によって正確に算定できるようになったのは平成六年四月のことであり、それまでの間に金額を明示して請求をすることは不可能であったのであり、これに対し、メセタは、その間控訴人との間の雇用関係を否定し、賃金、一時金の資料を開示しなかったものであるが、控訴人との間に雇用関係があるとすれば、右金員を支払うべきことを承知していたのであるから、このような事情からすると、被控訴人が消滅時効を援用することは、権利の濫用であって許されない。」

(4) 原判決六〇頁五行目の「あるいこと」を「あること」に、同六一頁六行目の「解雇権」を「権利」に改め、同七行目の「及び整理解雇」、同一〇行目の「及び解雇権」、同六二頁初行の「及び整理解雇」及び同三行目の「処分権及び解雇権の濫用として」をいずれも削り、同七行目の次に改行して「(3) 再抗弁1(3)の事実は否認する。」を加える。

二  証拠関係は、原判決六三頁四行目の「記録」の次に「(原審及び当審」を加えるほかは、原判決事実摘示第三のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  メセタが平成八年一二月一三日に東京地方裁判所において破産宣告を受け、被控訴人が破産管財人に選任され、本訴を承継したこと、右破産事件において、控訴人が、別紙請求債権一覧表中「請求債権額」欄記載の債権を賃金債権として債権届出したこと、被控訴人が、平成九年三月二日に開催された右破産事件の債権調査期日において、右届出債権に対し、同表中「異議ない金額」欄記載の債権(以下「確定破産債権」という。)の存在自体については異議を述べなかったが、右債権が一般の優先権を有すること及び同表中「異議金額」欄記載の債権が一般の優先権を有する破産債権であることについては異議を述べたこと、確定破産債権が本訴請求債権のうち原判決において請求が認容された債権(ただし、遅延損害金を除く。)と同一のものであることは、当事者間に争いがない。

右事実によれば、右届出債権(別紙一覧表の「請求債権額」欄記載の債権)のうち、確定破産債権の範囲においては、破産債権として確定したものである。

二  そこで、まず、本訴請求のうち、別紙請求債権一覧表中「異議金額」欄中賃金差額債権の存否について検討する。

1  平成二年三月二一日から同六年三月三一日までの差額賃金について

証拠(<証拠略>)によれば、メセタの給与規定において、給与は、基本給、職務給、調整給、家族給から成る基準内給与と時間外勤務割増給、休日勤務割増給、特別手当から成る基準外給与とから成っており、その支給方法は、支給日(毎月二五日)の属する月の前月の二一日を起算日、支給日の属する月の二〇日を締切日として、その間の給与額を計算し、これを毎月二五日に支払うものと定められていることが認められるから、これによれば、メセタにおける給与は、毎月二〇日にその月に支給される前一か月分の給与額が決定され、これによって具体的な給与債権として一か月ごとに発生するものということができる。そして、原判決第二の三の1の(1)の争いない事実及び証拠(<証拠略>)によれば、控訴人は、前訴において、平成元年八月一日以降一か月三〇万〇五〇〇円の割合による賃金(給与)の支払を求め、その判決において、右同日から判決確定時(平成六年三月三一日)までの間の賃金請求債権(給与債権)として右請求額が認容され、右判決は確定したのであるから、右の期間における控訴人の給与債権は右判決により、確定したものである。したがって、本訴において、右の期間に係る差額賃金の存在を主張することは、右判決の既判力に抵触するものというべきである。

控訴人は、本訴請求に係る差額賃金は、前訴における賃金請求債権とは訴訟物を異にし、右差額賃金は前訴で請求した給与額(平成元年八月一日当時における給与規定に基づく給与額)後の昇給、ベースアップ、新賃金体系への移行による賃金額の改定、各種手当ての増額等に基づく給与の増額分の請求であって、請求原因事実も異なる旨主張する。しかし、前記のとおり、メセタの給与額は給与規定等によって毎月客観的に定まるのであり、したがって、給与債権の発生原因事実もこれに伴って毎月客観的に特定されるのであるから、控訴人が前訴において請求した給与額も、右のようにして定まるべきものであるところ、控訴人は、前訴の事実審における口頭弁論終結日までの間に、請求を拡張し、右のような主張、立証をして、本訴において差額賃金として請求している分を含めて請求することができたにもかかわらず、前訴において給与額は月額三〇万〇五〇〇円であるとして請求し、これが判決によって確定されたのであるから、控訴人の右主張は失当である。なお、控訴人は、右の差額賃金請求の根拠となる資料を入手したのは平成六年四月六日以降であると主張するが、そのことは右の判断を左右するものではない。また、控訴人は、前訴は一部請求であり、本訴はその残額請求であるとも主張するが、前訴がその請求期間中の全部の給与額を請求する趣旨であったことは、前訴の請求自体から明らかであるから、右主張は採用し得ない。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、平成二年三月二一日から同六年三月三一日までの間の差額賃金請求債権が存在することを前提とする請求は失当である。

2  平成六年四月一日から同年八月二〇日までの差額賃金について

(一)  平成六年三月二一日以降の控訴人の給与は、後記三の3の(二)において判示するとおり、月額三一万一四〇〇円を下らなかったものである。

控訴人が、メセタから給与として同年四月一日から同年七月三一日まで各月額一九万一六〇〇円、同月(ママ)八月分として一二万七七三三円の支払を受けたことは控訴人の自認するところであり、メセタが控訴人に対し、平成六年三月三〇日付け書面により、休職期間を同年六月末日までとし、その間本給の八〇パーセントを支給するが、賞与の支給、本給の年齢及び勤続に基づく昇給以外の定期昇給並びにベースアップはせず、退職金の計算においては休職期間の六〇パーセントのみを算入することを内容とする休職命令を発し、右命令が同年四月六日に控訴人に到達したこと、メセタが同年六月二〇日付け書面により、右の休職期間を同年七月末日まで延長する旨の命令(以下、右の休職命令及び延長命令を一括して「本件休職命令」という。)を発し、右命令がそのころ控訴人に到達したことは当事者間に争いがない。

(二)  控訴人は、本件休職命令は処分権の濫用等により無効であると主張するので、判断する。

(1) 証拠(<証拠・人証略>)によれば、メセタは、昭和二一年に設立され、経営不振に陥ったこともあったものの、再建し、昭和五八年には一〇店舗を有し、売上総額も二二億円に達したが、その後は業績が停滞ないし下降傾向となり、昭和五九年度に約一六〇〇万円の赤字を計上してからは毎年四、五〇〇〇万円の赤字が出るようになり、平成二年には外部から専務を招聘して業績の回復を期したけれども、回復するに至らなかったこと、業績不振の原因は、運営能力の不足、組合員の高齢化に伴う購買力の減少と組合員の減少、チェーンストア等の競合店の増加等であると考えられたこと、メセタは、平成二、三年ころに業績が一時上昇したことがあったが、都内の他生協との組織統一のため財務状況を整理した結果、多額の資産の償却・除却不足、在庫・買掛金の残高修正、引当金不足が明らかとなり、これを平成四年度決算に計上したところ、累積欠損の総額が約七億円に達し、いわゆるバブル経済崩壊による消費の低迷と競合店との競争の激化により、再び業績が低下し、黒字店は二店舗のみになったこと、そこで、メセタは、累積欠損の拡大を防止するため、平成五年度に一店舗、同六年度に四店舗を閉鎖して不採算店の整理を実行するとともに、不稼働資産の売却による生協債の償還を進めるなどして債務の削減に努力したものの、好転するに至らなかったこと、右のような経過の中で、メセタは、平成六年一月から全従業員に対して希望退職を募ったが、同年四月までに退職に応じたものは四名のみであったこと、控訴人は、同年三月三一日に確定した前訴の判決により、メセタの従業員の地位を回復したが、控訴人が復帰する原職は既に存在せず、また、メセタが右のような経営状態であったため、控訴人が従事する適当な職場もなかったこと、メセタは、控訴人に対して本件休職命令を発したほか、七名の従業員に対して、本件休職命令と同様の休職命令を発したこと、これらの休職命令は、平成五年三月一日に実施された「研修休職規定」に基づいて行われたものであるが、右規定は、メセタが事業の整理縮小等により、人員整理を行わざるを得ないような事態に至った場合に適用する目的で定められたものであり、右規定の制定に当たっては、メセタの正規職員二九名中二五名で組織されている下馬生協労働組合との間で協議したが、同意が得られなかったため、その旨の書面を添付して所轄の労働基準監督署に届け出たものであること、その後、右の休職命令を受けた七名の従業員のうち一名が復職、二名が退職、五名が整理解雇となったことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) 右事実によれば、控訴人が、前訴の確定判決によりメセタの従業員の地位を回復した時点においては、メセタには控訴人が復帰する原職は既に存在せず、他の従業員に対しても希望退職を募っていたような経営状態であって、控訴人を従事させる適当な職場がなかったのであるから、このような状況下で、メセタが控訴人に対して本件休職命令を発したことは、やむを得ないところであり、正当な事由があったものというべきである。他に、本件休職命令が処分権の濫用であることを認めるに足りる証拠はなく、したがって、控訴人の前記主張は採用することができない。

控訴人は、「研修休職規定」は、労働組合の同意を得ていないから無効であると主張するけれども、メセタは右規定を制定する当(ママ)たって、従業員の過半数で組織されている下馬生協労働組合との間で協議したが、同意を得られなかったため、その旨の書面を添付して所轄の労働基準監督署に届け出たことは前示のとおりであり、右規定を制定するについて同組合の同意は必要でない(労働基準法九〇条参照)から、右主張は採用することができない。

さらに、控訴人は、本件休職命令は不当労働行為であるとも主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はないから、右主張も採用の限りではない。

したがって、本件休職命令が無効である旨の控訴人の主張はいずれも理由がない。

(3) 前記「研修休職規定」によれば、控訴人は、本件休職命令による休職期間中(平成六年四月一日から同年七月三一日まで)は、本給の八〇パーセント、その後は給与額の全額の支給を受けることになるところ、右休職期間中の控訴人の給与額は、前記のとおり月額三一万一四〇〇円であり、そのうち本給は二六万五四〇〇円である(<証拠略>は、前訴判決確定後、メセタの総務部長であった志村紀久雄が専務であった加藤茂と相談して、判決で認定された給与額を各給与費目に割り当てたものであり、控訴人が解雇されなかった場合の給与水準を検討して算定したものではない(<人証略>)から、これを前提とすることはできないというべきである。)から、休職期間中は少なくとも右本給の八〇パーセントに相当する月額二一万二三二〇円、その後は月額三一万一四〇〇円の支給を受けるべきところ、控訴人がその間にメセタから支払を受けた金額は、休職期間中が月額一九万一六〇〇円、同年八月分が一二万七七三三円であったから、右の間の未払の差額賃金は、次のとおり休職期間中の分が合計八万二八八〇円、同年八月一日から同月二〇日までの分が七万三一七〇円となる。右の八月分のうち、六万六一三八円については、前示のとおり破産債権として確定しているから、これを控除すると、その残額は七〇三二円となる。

<1> 平成6年4月1日から同年7月31日分

21万2320円-19万1600円=2万0720円×4か月分=8万2880円

<2> 平成6年8月1日から同月20日分

31万1400円÷31×20=20万0903円-12万7733円=7万3170円

三  次に賞与(一時金)請求債権について判断する。

1  メセタの給与規定において、賞与に関し、請求原因4の(1)のとおり規定されていることは当事者間に争いがない。

2  被控訴人は、控訴人が本訴で請求している賞与のうち、平成三年五月から前訴の判決確定日である平成六年三月三一日までの部分については、前訴の訴訟物である賃金請求債権と同一であるから、前訴の既判力に抵触する旨主張する。

しかし、原判決第二の一の4の(1)の事実(争いがない。)によれば、メセタの給与規定上、賞与は給与とは別の支給時期に、別の支給基準に基づいて支給されているのであり、その請求債権の発生原因は、給与請求債権の発生原因とは異なるものであることが認められるから、給与についての前訴の判決の既判力が賞与請求債権に及ぶものではないというべきである。したがって、被控訴人の右主張は採用できない。

3  そこで、控訴人の請求する賞与額について検討する。

(一)  賞与額算定の基礎となる成績率については、控訴人の成績率が最低点である一・〇以上であると評価されるべきことを認めるに足りる証拠はないから、右の最低点によるべきである。

次に、出勤率については、証拠(<証拠略>)によれば、当該賞与の算定基礎期間における所定労働日数から休業日数を控除した数値を当該賞与の算定基礎における所定労働日数で除した数値であることが認められる。

この点について、被控訴人は、控訴人はその在勤当時において、勤務成績及び出勤率が極めて悪く、殊に平成元年六月二六日ころから同年八月一日ころまでの間は毎日タイムカードを押した後どこにいるのかが全く分からないような状態が続き、平成元年中の出勤率は八割以下であったから、定期昇給や満額の賞与が支給されるような状態ではなかった旨主張する。しかし、証拠(<証拠・人証略>)によれば、控訴人が平成元年までの間において、前年度の出勤率が八割に満たないことを理由として昇級(ママ)又は賞与の支給に不利益に扱われることはなかったこと、控訴人は、昭和六三年にメセタの本部から共同鮮魚センター勤務を命ぜられたが、その措置に不服で、平成元年六月二六日の一、二か月前ころから、いったん同センターに出勤してタイムカードを押した後、同センター長の大竹節郎に対して本部で勤務する旨述べて、メセタの本部に行き、勤務先をめぐる交渉等を行い、帰宅時に同センターに戻ってタイムカードを押していたこと、右大竹は、控訴人に対し、そのような行動は承認できない旨述べたことがあったものの、何度も注意するということはなかったこと、メセタは大竹からの報告を受けて平成元年六月二六日付けで控訴人に対し、就業規則一六条中の「従業員は、やむを得ない私用により早退または外出しようとするときは、あらかじめ所属長の許可を受けなければならない。」「一日の就労が連続して四時間に満たない場合は欠勤扱いとする。」の規定に該当するので、今後このような行為をしないよう警告する旨の警告書(<証拠略>)を交付したこと、しかし、それ以上に控訴人の右行為をもって欠勤扱いにしたり、これを理由に懲戒等の処分をしたことはなく、平成元年上期の控訴人の賞与を出勤率によって減額したこともなかったこと、その後、同年七月一七日付け控訴人に対する通知書により、八月一日付けで「生活協同組合イーコープ」への移籍が通知され、同年九月一日付けで右生協から採用取消の通知を受け、前訴に至ったことが認められ、このような事実に照らすと、控訴人が、その出勤率が低い(八割に満たない)ことによって平成元年下期の賞与額が減額される蓋然性が高いものと認めることはできず、平成二年度以降の昇給及び賞与についても、これと異なる事情が存することを認めるに足りる証拠はないから、平成二年度以降についても、昇給の延伸又は賞与の減額をすることは許されないものというべきである。したがって、被控訴人の右主張も採用することができない。

(二)  平成元年下期賞与

証拠(<証拠略>)によれば、平成元年下期賞与の算定基礎となる基準内給与額は三〇万〇五〇〇円であり、同期の賞与の支給率は二・六五月であることが認められるから、同期の賞与額は次のとおり七九万六三二五円となるところ、右のうち六二万九〇九七円については、前示のとおり破産債権として確定しているので、これを控除すると、その残額は一六万七二二八円となる。

30万0500円×2.65月=79万6325円

(三)  平成二年上期賞与

証拠(<証拠略>、控訴人本人)によれば、平成二年上期賞与の算定基礎となる基準内給与額は、一律六七〇〇円のベースアップ及び少なくとも三二〇〇円の定期昇給により基本給が二五万五四〇〇円となり、職務手当は四万円であり、家族手当は妻が収入を得て対象外となったため、五〇〇〇円となったことにより、合計三〇万〇四〇〇円となったこと、同期の賞与の支給率は二・〇〇月であることが認められるから、同期の賞与額は次のとおり六〇万〇八〇〇円となる。右のうち四七万四七九〇円については、前示のとおり破産債権として確定しているから、これを控除すると、その残額は一二万六〇一〇円となる。

30万0400円×2.00月=60万0800円

(四)  平成二年下期賞与

平成二年下期賞与の算定基礎となる基準内給与額は右のとおり三〇万〇四〇〇円であり、証拠(<証拠略>)によれば、同期の賞与の支給率は二・一月分に一九万五〇〇〇円を加えた金員であることが認められるから、同期の賞与額は次のとおり八二万五八四〇円となるところ、右のうち六九万三五三〇円については、前示のとおり破産債権として確定しているので、これを控除すると、その残額は一三万二三一〇円となる。

30万0400円×2.10月=(ママ)82万5840円

(五)  平成三年上期賞与

証拠(<証拠略>、控訴人本人)によれば、平成三年上期賞与の算定基礎となる基準内給与額は、従前の基準内給与の五・四パーセント増で、一万六〇〇〇円以内のベースアップにより基本給が二七万一四〇〇円となり、職務手当は四万円、家族手当は五〇〇〇円で、合計三一万六四〇〇円となったこと、同期の賞与の支給率は二・〇〇月であることが認められるから、同期の賞与額は次のとおり、六三万二八〇〇円となるところ、右のうち四七万四七九〇円については、前示のとおり破産債権として確定しているので、これを控除すると、その残額は一五万八〇一〇円となる。

31万6400円×2.00月=63万2800円

(六)  平成三年下期賞与

証拠(<証拠略>、控訴人本人)によれば、控訴人の長女は平成三年一〇月には満一八歳に達し、家族手当の対象外となったので、同年下期賞与の算定基礎となる基準内給与額は三一万一四〇〇円(基本給二七万一四〇〇円、職務手当四万円)となったこと、同期の賞与の支給率は二・七月分に五万円を加えた金員であることが認められるから、同期の賞与額は次のとおり、八九万〇七八〇円となるところ、右のうち六九万〇九六七円については、前示のとおり破産債権として確定しているので、これを控除すると、その残額は一九万九八一三円となる。

31万1400円×2.70月+5万円=89万0780円

(七)  平成四年上期賞与

証拠(<証拠略>、控訴人本人)によれば、平成四年二月二一日から新賃金体系に移行されたこと、これによれば、控訴人に適用される同年上期賞与の算定基礎となる基準内給与額は、基本給一四万六五〇〇円、勤続本給三万四〇〇〇円、資格手当四万円、住宅手当六〇〇〇円であることが認められるが、控訴人に適用すべき職務本給額を認めるに足りる証拠はないこと、しかし、新賃金体系の移行については月次給与及び年額で従来の金額を下回らないようにするものとされたこと、同期の賞与の支給率は二・〇〇月であることが認められる。そうすると、控訴人の同年上期賞与の算定基礎となる基準内給与額は、少なくとも従前の基準内給与額である三一万一四〇〇円を下らないものというべきであり、同期の賞与額は次のとおり、六二万二八〇〇円を下らないものというべきところ、右のうち四七万四七九〇円については、前示のとおり破産債権として確定しているから、これを控除すると、その残額は一四万八〇一〇円となる。

31万1400円×2月(ママ)=62万2800円

(八)  平成四年下期賞与

平成四年下期賞与の算定基礎となる基準内給与額は右同額とみるべきであり、証拠(<証拠略>)によれば、同期の賞与の支給率は二・六五月分に二万円を加えた金額であることが認められるから、同期の賞与額は次のとおり、八四万五二一〇円となるところ、右のうち六四万九〇九七円については、前示のとおり破産債権として確定しているので、これを控除すると、その残額は一九万六一一三円となる。

31万1400円×2.65+(ママ)2万円=84万5210円

(九)  平成五年上期賞与

証拠(<証拠略>、控訴人本人)によれば、控訴人に適用される同年上期賞与の算定基礎となる基準内給与額は、基本給が一四万八五〇〇円、勤続本給が三万六〇〇〇円、資格手当が四万円、住宅手当が六〇〇〇円であることが認められるが、控訴人に適用すべき職務本給額を認めるに足りる証拠はないこと、しかし、月次給与及び年額で従来の金額を下回ることはないものと認められること、同期の賞与の支給率は二・〇〇月であることが認められる。そうすると、控訴人の同年上期賞与の算定基礎となる基準内給与額は、少なくとも従前の基準内給与額である三一万一四〇〇円を下らないものというべきであり、同期の賞与額は次のとおり、六二万二八〇〇円を下らないものというべきところ、右のうち四七万四七九〇円については、前示のとおり破産債権として確定しているから、これを控除すると、その残額は一四万八〇一〇円となる。

31万1400円×2月(ママ)=62万2800円

(一〇)  平成五年下期賞与

平成五年下期賞与の算定基礎となる基準内給与額は右同額とみるべきであり、証拠(<証拠略>)によれば、同期の賞与の支給率は二・六五月分に二万円を加えた金額であることが認められるから、同期の賞与額は次のとおり、八四万五二一〇円を下らないというべきところ、右のうち六四万九〇九七円については、前示のとおり破産債権として確定しているので、これを控除すると、その残額は一九万六一一三円となる。

31万1400円×2.65+(ママ)2万円=84万5210円

(一一)  平成六年上期賞与について

証拠(<証拠略>、控訴人本人)によれば、控訴人に適用される同年上期賞与の算定基礎となる基準内給与額は、同年三月二一日から基本給が一四万九〇〇〇円、勤続本給が三万八〇〇〇円、資格手当が四万円、住宅手当が六〇〇〇円となったことが認められるものの、前記と同様に控訴人に適用すべき職務本給額を認めるに足りる証拠はないから、その基準内給与額を算定することはできない。しかし、月次給与及び年額で従来の金額を下回ることはないものと考えられるから、控訴人の基準内給与額は、少なくとも従前の基準内給与額である三一万一四〇〇円を下らないものということができる。もっとも、控訴人に対して発せられた本件休職命令によれば、賞与は支給しないこととされており、右命令が無効でないことは前示二の2のとおりであるから、控訴人の平成六年上期賞与の請求は理由がない。

四  その余の被控訴人の抗弁について

その余の被控訴人の抗弁についての判断は、原判決八四頁六行目の「(相殺」から同八七頁初行末尾までの記載と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決八四頁六行目の「四」を「1」に、同七行目の「1 被告は」を「(一)被控訴人は」に、同一〇行目の「2」を「(二)」に、同八五頁四行目の「3」を「(三)」に、同六行目の「被告」を「被控訴人」に、同七行目の「五」を「2」に、同八行目の「1 本件」を「(一) 本件原審」に、同一〇行目の「被告」を「メセタ」に、同八六頁四行目の「2」を「(二)」に、同九行目の「被告」を「メセタ」に、同八七頁初行の「被告の」を「その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の」に改める。)。

五  以上によれば、控訴人は、メセタに対し、別紙請求債権一覧表中「当審認容金額」欄記載の賃金請求債権を有していたものであり、控訴人が、右債権について、メセタに対する前記破産事件において、破産債権として債権届出をしたことは前記一のとおりである。そして、右債権及び確定破産債権はいずれも賃金債権であるから、民法三〇六条二号、破産法三九条による一般の優先権を有する破産債権であることは明らかである。

六  以上の次第であるから、控訴人の被控訴人に対する当審における請求は、別紙請求債権一覧表中「異議ない金額」欄の破産債権が一般の優先権を有する破産債権であること及び同表中「当審認容金額」欄記載の債権が一般の優先権を有する破産債権であることの各確定を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却し、訴訟費用につき、民事訴訟法六七条一項、六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 筧康生 裁判官 村田長生 裁判官 後藤博)

別紙 請求債権一覧表

<省略>

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